Masuk合宿三日目の朝。
沖縄の強い陽射しが、ダイニングの大きな窓から差し込んでいた。
「はい、今日は掃除当番決めるからなー!」
瞬多がホワイトボード片手に声を張る。
朝食を食べ終えたメンバーたちは、リビングに集められていた。
「はあ? 掃除なんて面倒くせーことやりたくねえし」
龍也が短く刈り上げた金髪の後頭部を掻きながら、不満そうに唇を尖らせる。
それを嗜めるような声音で、瞬多が説明する。
「せやけど、この合宿所には掃除してくれるスタッフはいてへんやん。寝室は各自でやればええけど、お風呂やトイレなんかの共用スペースは誰がやるか決めなあかんやろ?」
そこで一旦言葉を区切り、目線で響やミンソクの方を示す。
「昨日は気付いたメンバーが気を利かせてやってくれてたんやで?」
「じゃあそれでいいじゃん」
「あかんて! まじめな奴が損してまうやん」
「やりたいやつがやってんだから、問題ねーだろが。嫌ならやんなきゃいいだけだ」
そこへミンソクが口を挟む。
「確かに掃除するのは嫌いじゃないけど、十四人もいる家の汚れ方って半端じゃないよ。できれば皆で手分けしてやってほしい」
ミンソクの訴えに、ほとんどのメンバーが頷き、賛同の声をあげる。
「そりゃそうだ」
「当番決めた方がいいよ」
わいわい騒ぐ声の中、響だけは真面目な顔でホワイトボードを見ていた。
そして、おもむろに立ち上がる。
「効率を考えるなら、担当を固定した方がいいと思う。毎回変えると責任の所在が曖昧になるから」
「うわ出た、委員長」
龍也がソファーにふんぞり返ったまま笑う。
「掃除なんか適当でいいだろ。男しかいねーんだし」
響の眉がわずかに寄った。
「適当で済ませると、誰か一人に負担が偏る。共同生活なんだから最低限のルールは必要だよ」
「あぁ? だから何だよ。お前、細けえんだよ」
「細かいんじゃなくて常識の話」
空気がぴりっと張る。
彼方が「おっ、始まった」と小声で笑い、そらが不安そうに二人を見比べた。
龍也はテーブルに肘をつきながら、露骨に舌打ちした。
「東大卒サマは怖ぇなぁ。俺らみたいなバカとは住む世界違うもんな?」
「……学歴の話なんてしてない」
「でもそう思ってんだろ?」
響の顔から表情が消える。
颯馬は内心で「あー、まずい」と思った。
龍也は一度ムキになると止まらないタイプだ。
「龍也くん、落ち着いて——」
ミンソクが間に入ろうとするより先に、龍也が立ち上がった。
「だいたいお前、昨日も俺の置いた服の畳み方に文句言ったよな?」
「床に放置してたから畳んだだけ」
「勝手に触んなっつってんだろ!」
響も立ち上がる。
「だったらちゃんと片付けて」
「はぁ!? 喧嘩売ってんのか!」
空気が一気に険悪になる。
そらが小さく「やばい……」と呟いた時だった。
「まあまあ」
颯馬が二人の間に入った。
龍也の肩を軽く押し、響の前に立つ。
「どっちも間違ってねえよ」
「は?」
「龍也は勝手に自分の私物に触られんの嫌だったんだろ。響は部屋を綺麗にしたかった。どっちの気持ちもわかるし、間違ってない。だったら最初にルール決めりゃいいじゃん」
颯馬は大きな手でホワイトボードを指差した。
「例えば、“床に置きっぱなしは自分のベッドの前50センチ以内ならOK”とか、範囲を決めてさ。そうすりゃ揉めねえだろ」
「50センチって何基準だよ」
龍也が吹き出した。
リビングの空気が少し緩む。
颯馬も笑った。
「知らねえ。なんとなく」
瞬多が「適当かい!」と突っ込むと、彼方がゲラゲラ笑い始める。
「でも、颯馬くんの言う通りかも」
そらがほっとした顔で頷いた。
「ルール決めたらわかりやすいし」
響は少し黙ったあと、小さく息をついた。
「……わかった。僕も言い方きつかったかもしれない」
「チッ」
龍也は頭を掻いた。
「俺も別に本気でキレたわけじゃねーし」
「さっきめっちゃキレてたやん」
瞬多のツッコミに、今度は龍也本人まで笑ってしまう。
険悪だった空気が、ゆっくりほどけていった。
その様子を、水琴は少し離れた場所から眺めていた。
(ほんま、不思議な子やなぁ)
颯馬は特別口が上手いわけじゃない。
賢い言葉を並べるタイプでもない。
それでも、場の空気を変えてしまう。
誰かを頭ごなしに否定せず、相手の気持ちを考えてやることができる。だから、自然と皆を納得させてしまう。
龍也も響も、結局は颯馬に怒れないのだ。
掃除当番が無事決まり、メンバーたちが散っていく。
そのタイミングで、水琴が颯馬の隣へ歩み寄った。
「颯馬くん」
「ん?」
振り返った颯馬に、水琴はふっと笑う。
「さっき、かっこよかったで」
「え?」
「喧嘩の仲裁したの。颯馬くん、ほんまにまとめ役向いてるなぁ」
そう言いながら、水琴は颯馬の二の腕に軽く触れた。
カメラの死角ではない。
ちゃんと配信に映る位置。
だからこそ、水琴の距離感は絶妙だった。
「……別に大したことしてねえよ」
颯馬は少し照れくさそうに視線を逸らした。
その耳が、わずかに赤い。
水琴は思わず笑いそうになる。
(あかん)
かわいい、と思ってしまった。
利用するための相手。
炎に近づくための道具。
そのはずなのに。
颯馬が優しく笑うたび、胸の奥が落ち着かなくなる。
水琴は誤魔化すように、颯馬の肩へ軽くもたれかかった。
「俺、颯馬くんがおると安心するわ」
「……営業?」
颯馬が小声で聞く。
水琴は一瞬だけ黙った。
そして、いつもの笑顔を浮かべる。
「どうやろな?」
その時だった。
リビングの大型モニターに、突然通知画面が表示される。
【現在の視聴者数:15,842人】
【急上昇タグ】 #颯水 #颯水ガチ説 #理想の彼氏は颯馬
「うわっ、増えすぎじゃね!?」
彼方が叫ぶ。
瞬多が「颯馬モテモテやん!」と笑い、そらはなぜか少しだけ複雑そうな顔をした
その時、まひろがソファーの背もたれ越しに身を乗り出した。
「ねえねえ、二人って実際どうなの?」
きらきらした目で、颯馬と水琴を交互に見る。
「前からの知り合いじゃないよね? 初対面にしては仲良すぎじゃない?」
リビングの空気が、少しだけこちらに集まった。
颯馬は一瞬、言葉に詰まる。
「いや、別に……普通だろ」
「普通で膝枕とお姫様抱っこする?」
まひろがすかさず突っ込む。
彼方が横から身を乗り出した。
「それな! 俺も気になってた!」
水琴は颯馬の腕に軽く寄り添い、カメラに映る角度でにこりと笑った。
「さあ、どうやろなぁ?」
「そこ濁すの、余計怪しいんだけど!」
まひろが楽しそうに声を上げる。
颯馬は困ったように水琴を見る。
水琴はその視線を受け止めながら、甘く目を細めた。
「でも、俺は颯馬くんのこと好きやからそばにおるんやけど」
水琴の言葉に、誰かがヒューッと口笛を吹いた。
「え? え? その好きって、恋愛感情ってこと?」
まひろがこれ以上ないぐらいに目を大きく見開き、声を一段高くする。
「さぁなぁ」
水琴は意味深な笑みを浮かべ、隣の颯馬の横顔を見つめる。
「颯馬くんはどう思ってるの? 水琴くんのこと!」
まひろがもはや芸能リポーターのごとく、エアーマイクを颯馬の口元に向ける。
(……颯馬くん、どう答えるんやろ)
水琴は颯馬の言葉を待った。
颯馬は少しうざったそうな顔でため息を吐き、髪をかきあげる。
「……そんなこと、生配信のカメラがあるとこで言うことじゃないだろ」
その一言に、リビングが一瞬だけざわついた。
(へえ、なかなか上手い返しやん)
そう思いながら、水琴はニコリと微笑む。
「せやな。じゃあまた今度、二人っきりの時に聞かせてや」
真実っぽさとおふざけっぽさのバランスを保つ。それが肝心や。
「ええ―っ! 僕も知りたいんだけど?」
まひろが不満げな声をあげる。
「なんやなんや、カップル誕生か?」
瞬多がニヤニヤしながら囃し立てる。
そして、コメント欄の流れがまた一段速くなった。
水琴はモニターを見上げながら、小さく目を細める。
―――うん。ええ感じやな。この調子や。
数か月後。 ステージ袖まで届く歓声を聞きながら、颯馬は衣装の裾を引っ張った。 何度確認しても、特に乱れているところはない。それでも手持ち無沙汰になると、つい触ってしまう。「颯馬、さっきからそれ何回目?」 彼方に指摘され、颯馬はようやく手を離した。「そんな触ってた?」「めっちゃ触ってる。緊張してる?」「してないとは言わない」「俺はしてる!」 彼方は隠す気もないらしく、両手を広げてみせた。「ヤバい、めちゃくちゃ楽しみ! 早く出たい!」「お前のそれ、緊張ちゃうやろ」 瞬多が笑いながら突っ込む。「遠足前の小学生やん」「昨日ちゃんと寝たし」「そういうとこまで小学生やな」「うるさいな!」 二人のやり取りを聞きながら、凱が大きな声で笑う。 少し離れたところでは、龍也がイヤーモニターをつけたり外したりしていた。「これ、ちゃんと聞こえてるよな?」「さっき確認しただろ」 カゲトラが言う。「でも急に壊れるかもしれねえじゃん」「本番前に何回確認しても、壊れる時は壊れる」「そういうこと言うなよ!」 龍也が振り返る。「余計緊張すんだろ!」「自分から聞いたんだろ」「お前さあ!」「二人とも、本番前に喧嘩するなって」 颯馬が止めると、龍也が「こいつが変なこと言うからだろ」と訴えてくる。 この光景にも、もうすっかり慣れてしまった。 あの離島で初めて七人のユニットに分けられた頃は、こんなふうになるとは思っていなかった。 七人は今日、オーディション候補生ではなく、一つのボーイズグループとしてステージに立つ。 Top of the rainbow。 それが、自分たちで考えたグループ名だった。「そういや
その頃、最終審査ライブの生配信では、本番が終わったあともコメントが途切れることなく流れ続けていた。@miu_39水琴くん途中から足庇ってなかった??? 大丈夫???@kyoto_luvやっぱりみーくん怪我してたよね? 結果発表のあとずっと座ってたし心配すぎる@7iro_star水琴、最初の曲は普通だったのに二曲目ちょっと動きおかしかった気がする。最後まで踊り切ったのすごいけど無理してたよね?@pinkmoon_05みーくん合格めちゃくちゃ嬉しいけどまず病院行って😭@somakoto_forever颯馬と水琴ずっと応援してきて本当によかった。二人とも名前呼ばれた瞬間普通に泣いたし、最後ずっと手を繋いでて尊かった❤@blue_sky728最初はBL営業おもしろwくらいで見始めたのに気づいたら二人とも本気で応援してた。30日間見てきてよかった@SOMA_1pick颯馬に投票しました。仲間思いで、最初から最後まで周りを見て動けるところが好きだった。デビューおめでとう@mikoto_1pick私は水琴に入れた! 歌もダンスも表情も全部好きだけど、この30日でどんどん仲間を大事にするようになったのが一番の理由@ryuya_beat龍也に投票した!! ラップとボイパで一発で好きになった。名前呼ばれた瞬間叫んだ@kanata_runrun彼方くんに一票! パフォーマンス中の楽しそうな顔が好きすぎる。見てるこっちまで楽しくなる@shunta_oshi瞬多に投票しました。ラップももちろんだけど、合宿中ずっと空気を明るくしてくれて
巨大スクリーンに七人の顔と名前が並んでも、颯馬にはまだ現実味がなかった。 水琴の手を握り、龍也たちに背中を叩かれ、何万人もの観客から名前を呼ばれている。 それでも、自分が明日から「デビューする側の人間」になるという事実だけが、身体から少し離れた場所にあるようだった。 やがて颯馬は、少し離れた場所に立つ五人に目を向けた。 日和は拍手をしていた。 いつもの穏やかな笑顔を保とうとしているのに、目からは次々と涙が落ちている。 隣にいたミンソクが肩を抱くと、とうとう顔を伏せた。 響は唇を強く噛んでいた。泣くまいとしているのか、何度も瞬きをしている。 まひろは最初から隠そうともせずに泣いていた。「悔しい……マジで悔しい……」 それでも両手を叩き続けている。「でも、おめでとう……ほんとに……」 イッセイはしばらく俯いていたが、やがて顔を上げると水琴を見た。 目が合う。 イッセイは何も言わず、笑って拍手を送った。 水琴の目から、また涙が溢れた。 颯馬は自分が合格した喜びだけに浸っていられなくなった。 この一か月、十四人で同じ場所を目指してきた。 そのうち二人は、自分たちのしたことによって最後の舞台から姿を消した。 そして今ここにいる十二人のうち、七人が選ばれ、五人は選ばれなかった。 最初から分かっていたことなのに、名前が読み上げられてしまえば、その境界はあまりにもはっきりしていた。 結果を読み上げた男性が一礼してステージを去ると、炎が十二人の前に立った。『まず、十二人ともお疲れさま』 炎は候補生たちを見渡した。『結果は出ました。選んだのはここにいるお客さんたちと視聴者のみんなです。でも、俺からも最後に少しだけ話をさせてください』 会場が静まって
結果発表の時刻が近づくと、候補生たちは再びステージ袖に集められた。 そこに、そらと葉月の姿はない。 水琴は救護スタッフから足をつかないよう念を押され、ステージ袖までスタッフに車椅子で運ばれてきていた。結果発表中も無理に立たせないことが決まり、舞台上には水琴用の椅子が用意されている。「ほんまにこれで出るん?」 水琴が車椅子を見下ろして苦笑する。「歩くよりいいだろ」「ステージ出る直前までこれって、なんか恥ずかしいわ」「血まみれの靴で二曲踊った人が今さら何言ってんだよ」「それとこれとは別やん」 いつもの調子で返してくる声に、颯馬は少しだけ安心した。 けれど水琴の手は、膝の上で強く組まれていた。 颯馬自身も同じだった。 結果が出る。 三十日間の合宿も、東京に戻ってからの練習も、今日のステージも、すべてに答えが出る。「緊張するなあ」 彼方が両手を擦り合わせる。「ライブより緊張する」「分かる。踊っとる時は自分でなんとかできるけど、もうなんもできへんからな」 瞬多が客席側を見た。 龍也は落ち着きなく何度もその場で足を動かしている。「まだ?」「じっとしろよ」 凱に言われても止まらない。「無理。こうしてないと死ぬ」「死なねえよ」「分かんねえだろ」「結果待ちで死んだ奴聞いたことないぞ」 彼方が吹き出した。 その少し離れたところで、カゲトラだけは壁にもたれて黙っていたが、組んだ腕の指先が一定の間隔で動いている。 颯馬はそれを見て、カゲトラも緊張するのだと初めて知った。「炎さん、ステージ入ります!」 スタッフの声が飛んだ。 十二人の表情が変わる。 モニターには、再びステージへ向かう炎の後ろ姿が映っていた。
炎のライブ後半、最後の曲が終わった。 ステージを覆っていた照明が落ち、炎が深く頭を下げると、ドームを満たす拍手と歓声が舞台裏まで届いた。 このあとには審査結果の発表があり、その後、炎はアンコールでもう一度ステージに戻る予定になっている。そのため、いったん短い休憩が設けられていた。 救護室で再度処置を受けた水琴は、足を床につけないよう椅子に座っていた。「ほんまにもう血ぃ止まったって」「だからって歩くなよ」「颯馬くん、今日それ何回言うん?」「みーが何回も無茶するからだろ」 そのやり取りを聞いていた彼方が笑う。「颯馬、今日は水琴のお母さんみたいになってるよ」「恋人通り越しとるやん」 瞬多まで加わり、水琴が吹き出した。 いつの間にか、二人の関係がBL営業ではなく実際に恋人だということは、メンバー内では公認になっていた。 流出映像の件はノーコメントで貫いているが、颯馬も水琴も、恋人同士のように言われたところでもう否定はしない。「俺の方が風呂掃除うまくできるけどな」「そこ張り合うところ?」 龍也が呆れたところで、ステージ側から歓声がひときわ大きく聞こえた。 炎が舞台を降りてきたらしい。 颯馬が廊下の先を見ると、汗を拭きながら歩いてきた炎にスタッフが駆け寄っていた。 何かを耳元で伝えている。 炎が足を止めた。 別のスタッフがタブレットを差し出す。 画面を見た炎の眉が寄った。 さっきまで何万人もの観客を沸かせていた人間と同じとは思えないほど、その表情が変わる。「……何かあったのかな」 彼方も気づいたらしい。 炎はタブレットを操作し、映像らしきものを何度か確認していた。 やがて顔を上げる。「そら呼んできて」 近くにいたスタッフへ告げた。 颯馬は水琴と顔を見合わせた。「そら?」
二曲目の最後の音が鳴り止んだ。 七人で決めた最後のポーズを崩さないまま、颯馬は荒い呼吸を整えようとした。照明の熱で額から汗が流れ、衣装の背中は肌に張りついている。 一瞬遅れて、客席から歓声と拍手が押し寄せた。 何万人もの声が重なり、足元のステージまで震えているようだった。 やり切った。 島で何度も繰り返し、東京に戻ってからも細部を直し続けた二曲を、最後まで七人で踊り切った。 颯馬が隣を見る。 水琴も笑っていた。 いつもの、人目を引く華やかな笑顔だった。 けれど次の瞬間、その身体がわずかに傾いた。「水琴?」 颯馬が近づくより先に、水琴は体勢を戻した。 まだステージの上だ。 客席から見れば、少しよろめいた程度にしか見えなかったかもしれない。 七人で並び、観客に向かって頭を下げる。『ありがとうございました!』 声を揃えた。 再び大きな拍手が降ってくる。 水琴は最後まで笑っていた。
土曜日の朝。 颯馬がまだ寝ていると、ベッドの外から騒がしい声が聞こえてきた。「海行こうぜ海ーっ!!」 彼方の声だ。おかげで目が覚めてしまった。「朝から元気だなぁ……」 日和が眠そうに呟く。 颯馬がカーテンを開けると、部屋の中はすでに休日モードになっていた。そらはオレンジ色の髪を揺らしながら水着姿ではしゃいでいるし、彼方はシュノーケルを振り回している。「颯馬くん! 早く準備して!」「お前ら早すぎだろ……」 まだ頭がぼんやりしている。 その時。「おはようさん」 水琴がベッドのカーテンを開けた。 オーバーサイズのタンクトップは襟が大きく開いていて、鎖骨や胸元があらわになっ
昼食を終えた後、メンバーたちは再びスタジオへ集められた。 鏡張りの広い部屋。冷房は効いているのに、どこか空気が張り詰めている。「ここからはユニットごとに分かれて練習してください」 スタッフがそう告げると、自然と二つのグループに分かれていった。 颯馬は、自分とは別ユニットになったそらと目が合う。 そらは少しだけ寂しそうに笑った。「颯馬くん」「ん?」「ユニット離れちゃったね」
颯馬が戻ると、1号室のドアは、少しだけ開いていた。 元々あの有名プロデューサー炎の別荘だというだけあって、部屋は広い。二段ベッドを三台入れてもまだ余裕がある。ベッドの横には人数分の簡易クローゼットも設置されていた。 室内では、すでに三人が荷物を広げていた。 笑い声と、どこか浮ついた空気。合宿初日特有の、独特な高揚感。「ただいま」 颯馬が声をかけると、すぐに反応が返ってきた。「颯馬くん、おかえり!」 オレンジ色の髪を揺らして、そらが駆け寄ってくる。 近い。距離感がやたらと近い。 つぶらな瞳で見上げられて、颯馬は思わず視線を逸らしそうになった。「同じ部屋だね! こ
あの夜のことは、忘れられない。 高層階の窓の向こうに、東京の夜景が広がっていた。ガラスに映る光が、まるで星みたいに揺れていたのを覚えている。 背後から、低く甘い声がした。「颯馬、俺のこと好きなんだろ?」 振り向くより早く、腕を引かれた。 体が触れる距離に引き寄せられて、息がかかるほど近い。「……ねえ、俺を抱いてみない?」 その言葉が、冗談じゃないことくらい、わかっていた。 細い指が、俺の顎に触れる。逃げる理由なんて、どこにもなかった。 憧れて、焦がれて、やっと手に届いた人だったから。 ――あの夜、俺は初めて、炎さんを抱いた。 触れた体温も、息遣いも、全部、焼